客観的にうつ病を診断する方法

  • 2021年5月3日
  • 2022年8月19日
  • うつ病
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うつ病の診断は問診が一般的ですが、患者さん自身が正確に症状を表現出来なかったり、あるいは聞き取りを行う医師の技量の問題等が影響しやすく、同じ患者さんでも診察をする医師により、診断名が異なることは比較的良くあります。

数値で異常が分かれば、より客観的な判断による診断がつくことから、最近では血液検査や脳の検査等により、うつ病を診断しようとする研究がさかんに行われ、実際に一部の医療機関ではすでに行われています。しかしその場合でも、検査結果だけでなく、必ず問診を行い、総合的に診断されます。

光トポグラフィー検査

うつ病や統合失調症など、精神疾患等の人には、それぞれに特徴的な血流量のパターンがみられ、そのパターンを調べることで、うつ病などの精神疾患等の鑑別をしようとする検査が、光トポグラフィーです。光トポグラフィーは、頭に近赤外線をあて、その反射光を調べ脳内の血流等を把握します。
平成21年3月に「うつ状態の鑑別診断補助」として、光トポグラフィー検査は、厚生労働省より承認され、平成26年4月には保険適用されています。

検査方法

光トポグラフィーは、頭に専用の装置を装着した状態で、音声ガイダンスにしたがって質問(あ、で始まる言葉は?など)に答えていきます。装置を装着するといっても、特に痛みがあるわけではなく、特別な苦痛なくうつ病の検査ができます。

光トポグラフィー検査自体は20分程度で終了しますが、その他に心理検査をしたり、医師の問診等があったりしますの外来でも数時間はかかり、医療機関によっては検査入院での対応をとる所もあります。

唾液検査

唾液に含まれる成分の濃度の違い等から、その人のストレスの度合いを測る、うつ病の検査です。血液検査に比べると、注射(採血)がないので、痛みが伴わない検査法と言えます。コルチゾールは唾液によっても調べられます。

 コルチゾール(CORT)炎症を抑える効果等もあるが、ストレスによる過剰分泌で海馬を萎縮させる 
クロモグラニンA(CgA)交感神経等から分泌されるたんぱく質の一種
アミラーゼ(AMY)不快刺激で唾液アミラーゼ活性が上昇、快刺激で下降

検査方法

 血液検査では採血時に痛みが伴ったり、脳の検査でも時間がかかったり面倒ですが、唾液の検査は検査用のスポンジ等に唾液を含ませるのみなのでとても簡単です。

血液検査

 うつ病の人と、うつ病でない人では、血液中の数種類の物質に違いが見られるという点に着目した検査法です。

脳由来神経栄養因子(BDNF)神経細胞の成長を促す脳細胞の液性蛋白質
ノルアドレナリンの代謝産物(MHPG) ノルアドレナリンは意欲等に必要な神経伝達物質
 ドパミンの代謝産物(HVA) ドパミンは快楽等に必要な神経伝達物質
セロトニンの代謝産物(5-HIAA)セロトニンは安心感等に必要な神経伝達物質 
エタノールアミンリン酸(EAP)神経組織のホスファチジルエタノールアミンなど細胞に必須なリン脂質の前駆体
 コルチゾール(CORT)炎症を抑える効果等もあるが、ストレスによる過剰分泌で海馬を萎縮させる 
インターロイキン(IL)炎症を開始させるサイトカインの一種
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)視床下部の刺激によって分泌される

検査方法

血液の採取量自体は健康診断での採血と変わりありません。ただ、うつ病が疑われ治療を開始した場合等は、数週間から数ヶ月に1度採血を繰り返し行い、治療がうまくいっているか、あるいはうつ病が治ったかどうかの判断材料にすることがあります。

うつ病になると、病状や経過には、波があるため、自分でも今どのような状態なのか、分からなくなることがあるます。そのため、客観的に治っているのかどうかを知るためにも役に立つものと思います。

また、うつ病検査としては、比較的手軽に行える部類と言えます。 

まとめ

上記にあげたうつ病の検査は、どれも確定診断に至るまでの精度はありません。

光トポグラフィー検査に関しては、検査の際に使用する言語的な質問自体が、うつ病の検査として適切であるか見解が分かれますし、うつ病の血液検査についても、薬物治療を開始している人にとっては、薬の影響が出る可能性があります。

唾液検査に至っては、ストレスの強さを測定する程度にとどまっており、それが直接うつ病であるということにはなりません。

そもそもうつ病の診断基準が改正されるたびに、うつ病と言われる人も少しずつ変化しうる状況の中、原因もわかっていない病気に対しての検査に、無理があるのかもしれません。

また、実際に苦痛な症状がある時でも、うつ病検査で異常なしと判断された場合には、医療から切り離されてしまう側面もあるような気がします。
 
うつ病をはじめ、その他の精神疾患に関して、客観的に数値で診断ができれば、それはすばらしいことですが、なかなか難しいのが現状のようです。しかし、今まですべてを医師の問診に頼っていたことを考えれば、大きな前進であると言えます。

本来の意味でのうつ病とは違いますが、甲状腺の異常や、低血糖症等によっても、うつ病に良く似た症状が現れるため、うつ病と誤診されてしまう場合があります。それらが疑われる際や、精神科治療で長らく改善しない時は、上記に上げたうつ病検査とは別に、念のため各疾患の専門医による検査を受けてみるのも良いと思います。